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クロスカレンシー・ベーシス(スワップ)コスト発生の起源について

このコーナーでは、シグマインベストメントスクールの最高峰 研究科「金利モデルコース」より、第6回講義でお配りしている資料 「リーマンショック以降のスワッププライシングの変遷」 のごく一部をご覧いただきます。

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(この資料は、2024年6月に執筆されました)

クロスカレンシー・ベーシススワップ(以下CXBS)におけるベーシスコストの発生・起源に関する解説をあまり見た事が無い(※1)ので、以下で行ってみたい。そのためにまず、CXBSと為替スワップ取引(※2)との関係を理解する必要がある。

(※1)
個人的な経験では、ある先輩から「資本市場のゆがみ」が原因だという説明を受けたことがある。これだけでは即座には何を言っている分からないが、実はこれが悪くない説明であることが以下でわかるだろう。

(※2)
為替市場においてスポット取引と、その売り買いが逆のフォワード取引を同時に行う取引のこと。

微妙なキャッシュフローの差はあるものの、CXBSは3か月や6か月の為替スワップをその満期が来るたびにCXBSの満期まで繰り返し行うのとほぼ等しい。そのため実際にCXBSのヘッジには為替スワップが(繰り返しロールして)用いられる(この事を理解していない人が意外と多い)。

ところが1980年代の後半に、CXBSのヘッジとして行った為替スワップを金利スワップのシステムに入力して評価しようとすると、現在価値がゼロにならない事態が生じ始めたのである。もう少し具体的に言うと、当時CXBSのヘッジとしてよく行われた為替スワップは、ドル円のバイセル(=ドルのスポット買い&フォワード売り/円のスポット売り&フォワード買い)であるが、これを金利スワップのシステムに入力して評価すると現在価値がなぜか負になり始めたのである。CXBSベーシスコストの発生である。

なぜそんなことが起こるのか?

これを理解するための鍵は、ドルの対円でのバイセル取引の本質が円資金を担保にドル資金を調達しているという事実である。これを更にもう一歩進めて「円資金を“運用”に出して、ドル資金を“調達”している」と考えるとより分かりやすくなる。

これは例えばドル円のバイセルの円サイドだけを見ると、円の(対ドル)スポット売り、円の(対ドル)フォワード買いは、まず最初に円を払って、その後フォワード満期日に円を受け取るのだから運用になっている、という事である(これが分かればドルサイドがなぜ調達になっているかはすぐ理解できるだろう)。

ではどんな時にこの取引にペナルティーが課されるのか?

それは、「円資金が余っていて低い金利でもいいから円で運用したい」という状況と「ドル資金が足らないのでどんな高い金利を払ってでもドルを調達したい」という状況の片方か、または両方が生じている場合である。

1980年代は日本の経常収支が大幅に黒字で国内に運用先がなく、海外の借り手に少し低い金利でも貸したいという日本機関投資家のニーズが強く、前者の状況が恒常的に生じていた。もう少し詳しく言うと、日本の機関投資家は少し低い金利で円資金を海外の借り手に貸し付ける一方、海外の借り手が銀行を通じて借りた円の資金をドルに変換するクロスカレンシースワップ(円金利スワップ+CXBSに分解できる)が盛んにおこなわれ、そのヘッジとしてドルのバイセルが急増した(←なぜヘッジがバイセルになるか考えよ)。

一方、2000年代の初めころには、日本の金融機関が不良債権の処理に苦しみ国際的な信用力が低下した結果、ドル資金の調達が難しくなり、日本の金融機関は少々高い(いわゆるジャパンプレミアムが乗った)金利でもドルを調達したいという後者の状況が生じた 。

余談になるが、当時住友銀行の市場担当の役員だった(故)宿澤広朗氏(元ラグビー日本代表監督)がディーリングルームで先頭に立って「どんなレートでもいいからバイセルを全部取れ!(=どんな金利でもいいから(円資金を見合いに)ドル資金を調達せよ)」と檄を飛ばした様子が日経新聞朝刊の一面記事で紹介されていた。

「CXBSのベーシスコストが発生している様をこんなにまじまじと見れるとは・・・」と、感慨深くその記事を眺めたのを覚えている。

サンプル映像のお申し込み

研究科「金利モデルコース」より、第6回「金利の定義、スワップとスワップション」の講義を抜粋してご覧いただけます(収録時間:およそ2時間51分)。この講義映像は無料でご利用できます。

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