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エクセルを使ったモンテカルロ・シミュレーション
第10回 リスク中立評価法よるデリバティブ・プライシング (その1)
1. はじめに
これまで、リスク計測、具体的には VaR 計算におけるモンテカルロ・シミュレーションの利用について解説してきました。金融の分野でもう一つモンテカルロ・シミュレーションが活躍するのが、オプションをはじめとするデリバティブのプライシングです。
前述したように、モンテカルロ・シミュレーションが有用なケースというのは基本的に複雑な状況が多いわけですが、デリバティブにおけるモンテカルロ・シミュレーションの利用は特に理論的には複雑な話になります。リスク管理における利用の場合は、シミュレーションをする意味自体がよく分からないということはあまり無いかと思いますが、デリバティブのプライシングの場合は何故シミュレーションをする必要があるのか自体の理解がまず難しいのです。そのことを理解するためには、一般に「リスク中立評価法」などとも呼ばれる、「リスク中立確率」を利用したデリバティブのプライシング原理を把握している必要があります。
この部分については本講座できちんと説明をすることはできませんが、「そんな話は知らないが、モンテカルロ・シミュレーション自体は興味あるので、その話にも興味がある」という方もいらっしゃるかと思います。まずは、このあたりについて概論的なことをお話しします。
2. オプション・プライシングの一般理論(1) 無裁定理論
オプションに限らずデリバティブのプライシングというのは、その元となる資産(原資産、通常これに安全資産が加わります)によってデリバティブと同じキャッシュフローを複製し、その複製ポートフォリオの価値を計算すれば、それがデリバティブの価格になるという考え方をベースにします。
なぜそれでデリバティブの価格が分かるかと言えば、複製ポートフォリオの価値とデリバティブそのものの価値が異なれば、安い方を買い、高い方を売ることでアービトラージ(裁定取引)の利益が得られることになり、そのような価格が市場で放置されるはずはない(無裁定理論)というロジックに基づきます。
一方で、このことは、デリバティブの価値が必ずしもその将来の価値の期待値を反映するものではないことを意味します。外国為替のフォワードレートが円金利と外貨の金利とで決まり、将来のスポットレートの期待値によって決定されるのではないというのもその一例です。
また、オプション理論に詳しい方であれば、有名なブラック・ショールズ式に原資産の期待収益率が含まれないことをご存じと思います。
原資産の期待収益率が違えば、オプションの価値の期待値も当然違うはずですが、このことは、オプションの価値の期待値がオプションの価値に反映されないことを意味しています。
もともと期待値というものは、実際には極めて曖昧なものであり、現実的に期待値を求めるとすれば、 百人百様の値が出てくるようなものです。 したがって、期待値というものに頼ったプライシングは、一部の保険商品のような例を除けば非常に不安定な部分があります。
一方、デリバティブは、原資産の存在を前提とし、それと一定の関係を持つ「派生」商品という性格から、先ほど説明した無裁定理論による複製原理によるプライシングが成り立ちます。 その点で(少なくとも理論的には)、同じ計算モデルなどを利用すれば大体誰でも同じような価格にたどり着くという、プライシングの面での頑健性という特徴があります。
このように、デリバティブのプライシング原理は複製理論であるということになると、なぜモンテカルロ・シミュレーションなどが必要なのか、と思われるでしょう。 ところがここで、金融工学の有名な原理「複製原理に基づく価格と、『リスク中立経済下における金融商品の将来価値の期待値』の現在価値は一致する」という話が登場します。
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