1. はじめに

　モンテカルロ・シミュレーションとは、システム的に乱数を発生させて市場の変化をシミュレーションすることで、リスク量の測定や難しいデリバティブのプライシングなどを行う方法のことを言います。

　実務では、 VaR の計算や、エキゾチック・デリバティブのプライシングなどでよく利用されています。この手法の強みは何と言っても、基礎的な理論さえ把握していれば、一定のアプローチに従って幅広い問題を解決できるという点でしょう。通常問題が単純な場合は、数式による解法が選ばれますが、問題が複雑になるにつれ、数式による解法は難度が大きく増すあるいは適応が困難になってくるのに比べ、モンテカルロ・シミュレーションでは、それほどアプローチに変化がなく対応できるため、問題が込み入ってくればくるほど、相対的に利用しやすくなってくるのです。

　モンテカルロ・シミュレーションを実務で行うには、専用のシステムなどが必要になってくることも多いと思いますが、近年のＰＣのパワー・アップにより、エクセルでも、かなり実務で利用可能なレベルに近いシミュレーションが可能になっています。そこでこのシリーズでは、金融におけるモンテカルロ・シミュレーションの活用法の例をエクセルを使って実践してみたいと思います。最終的には、債券ポートフォリオの VaR 計算例や、アベレージ（アジアン）・オプションやルック・バック・オプションといったエキゾチックなオプションのプライシング例なども紹介していきたいと考えていますが、今回はまず、シミュレーションの元となる乱数の発生について扱います。

　2. 一様乱数の発生

　エクセルで乱数を発生させるには、「＝RAND（）」という関数を使います。（ ）内には何も入れる必要はありません。

出力されるのは一様乱数といわれるもので、 0 以上 1 未満の任意の値をどれも同じ確率でとる確率変数になります。

0 以上 1 未満の値をどれも同じ確率でとるということは、例えば 0.2 以下の値をとる確率は 0.2 であり、 0.6 以下の値をとる確率は 0.6 であることを意味します。この乱数の確率密度関数を図に表せば図２のようになります（「確率密度関数って何？」という方もいらっしゃるかもしれません。その方はここはあまり気にせず読み進めてください）。

当然乱数ですから、同じ式をシートの 2 箇所のセルに入れてもその値は異なります。発生した乱数の値はセル上に表示されていますが、再び発生させ直すには「F9」キー（再計算実行）を押します。すると、シート上の全ての乱数が再発生されます。あるいは、シート上のどこでも新たにセル入力がなされると、エクセルはシート全体の再計算を行いますので、全ての乱数は再発生されることになります（但し、計算方法が「自動」の場合のみ）。

　3. サイバーサイコロの作成

　金融分野において一様乱数がそのままの形で使われることはまずありませんが、一様乱数が与えられるとそれに演算を施すことによって、必要としている分布に従う乱数を作り出すことが可能です。

ここでは、金融とは直接関係はありませんが、その簡単な例としてサイコロの目と同じ分布に従う乱数を作成してみましょう。言うまでもないことですが、サイコロの目は 1～6 の整数値をどれも等確率（1／6）でとるという確率変数です。

　まず始めに、RAND（）の値を 6 倍します（＝RAND（）*6）。これは、 0 以上 6 未満の任意の値を等確率でとる乱数となります。サイコロの目は整数値でなければなりませんから、こんどはこれを「＝INT（ ）」という整数部分だけを抽出する関数に入れます（＝INT（RAND（）*6））。すると、 0～5 までの整数を等確率でとる乱数ができ上がります。サイコロの目にするには 0～5 ではなく 1～6 にする必要がありますから、これに 1 を足せばでき上がりです（＝INT（RAND（）*6）＋1）。

実際にこの式をどこかのセルに入れ、「F9」キーを押すと少なくとも確率的にはサイコロを振ったのと同じ状況が作れることになります。